【フジロック’22総括 Vol.1】ストレートに楽しかったといえる日がくることを願って

今年のフジロックは天候には恵まれた。木曜日と日曜日に雨がちょっと降った以外は、期間中30分も降らなかったのではないか。レインウェアは羽織ったけど、長靴の出番はなかった。だが天候に恵まれて「ああ、よかった」と単純に振り返ることができないのが今年のフジロックである。

去年に引き続きコロナ禍でのフジロック。しかし、酒なし、深夜なしの去年と違い、今年はかなり緩和された。引き続き発声なし、ディスタンスを取り、手洗いが求められたし、注意喚起は常にアナウンスされていたけど、それが徹底されたとはいえないだろう。それは社会的な環境も変わってきたこともあるし、コロナ禍で自粛することにみなストレスを感じていたのだなということを実感するけれども、マナーという点では問題がなかったとはいえない。

自分は、モッシュピットなどの密集するところを避け、声はださずに拍手のみ、騒いでいる人がいたら離れる、黙食をおこない、飲酒の回数を減らし、酒を飲むにしてもなるべくひとりで飲むようにして、マスクは他に人がいないところを歩くとき以外は着用、手洗いはよくするようにした。感染したくないから自衛するしかない。自分は幸いにしてフジロックが終わって2週間近く経つけど症状はでなかった。

去年ほど、出演に迷ったとか悩んだというアーティストはいなかったし、世の中的にも「大変なときだけど前向きに頑張ろう」という空気なので、そんなに深刻な感じはなかった。それでいいのかといえば別だけど、去年よりは重い空気がないように思えた。

そうした環境で久しぶりの洋楽アーティストをみることができた今年のフジロックは、すばらしいライヴが多かった。

まずは、アジア勢の活躍を挙げたい。フジロックには韓国、台湾、タイなど、アジア圏のアーティストはよく出演してたけど、金曜日と土曜日のグリーンステージ朝1発目に、それぞれモンゴルからザ・フー(The HU)、インドからブラッディ・ウッドが抜擢されたのが象徴的だった。どちらも民族楽器を使用したヘヴィメタルで朝からガツンとくるサウンドで多くの人たちを魅了した。

BLOODY WOOD

The HU

台湾からはFire EX. 、Elephant Gymが登場した。Fire EX.は台湾を代表するパンクバンドで日本のアーティストとの交流も多い。後半にゲストとしてブラフマン/OAUのTOSHI-LOWが現れて“おやすみ台湾”を歌った。この曲は2014年の「ひまわり革命」で学生たちのアンセムとなっていて、TOSHI-LOWはこの曲の背景を説明した。Elephant Gymはテクニックとオシャレを両立させたサウンドでレッドマーキーを魅了した。それだけでなく、ベースのKT Chang(妹)の天真爛漫なMCとギターTell Chang(兄)の真面目な語りが対照的でありながら仲がよい兄妹関係が伺われて、その場を和ませた。

Fire EX.

Elephant Gym

韓国のインディロックバンド、セイ・スー・ミーが直前で来られなかったのは残念だったけど、ジャンルは違えど韓国人DJのナイト・テンポは今年のフジロックで大活躍したひとりだったのではないか。金曜日の午後にゲストヴォーカルを迎えた「Ladies In The City Live Set」は野宮真貴の初フジロック出演を実現し、“東京は夜の7時”を苗場で聴くことができた。一方土曜夜の「昭和グルーヴDJセット」は大盛況。和田アキ子、ラッツ&スターなどがかかったときの一体感とか、ラ・ムー、細川たかし、吉幾三など後にも先にもフジロックでかかるのはこのときだけじゃないのかと思える曲の連打や、Winkや松原みき、泰葉、竹内まりやなどNight Tempoが取り上げ再評価の俎上にあげた曲で大変に盛り上がった瞬間をみると、フジロックの深夜を再生させたんだなとしみじみ思う。

Night Tempo

久しぶりの洋楽(欧米圏)アーティストもフジロックに戻ってきた。ダイナソーJr.とモグワイのベテランのバンドは、ギターノイズが放つ倦怠や美しさや迫力を日本の人たちも待っていたし、バンドも演奏することを待っていたという、フジロックが相思相愛の場となって素晴らしい空間を作っていたのだった。

DINOSAUR JR.

MOGWAI

そして、今年のベストはコーネリアスだった。さまざまなことを乗り越えてフジロックのステージに立つことができた感慨も深いし、プレッシャーのなか、期待以上のステージをみせてくれたバンドの一体感も素晴らしかった。

初披露された“変わる消える”は坂本慎太郎による歌詞が小山田圭吾の心境を歌っているかのようなものに受け取れた。“Another View Point”では世界各地の民族音楽の映像を細かいカットで繋いでいき、次いでエルヴィス・プレスリーからビートルズを経てパンクやグランジやマッドチェスターに至るまでのロックスターの映像を一気にみせたときには「これは去年の大きなイベントでみせたかったものじゃないのか」と思えた。“Surfing on Mind Wave pt 2”の轟音は配信ではわからないくらい身体に響くほどすごかった。終盤には、昨年のフジロックでメタファイヴが演奏した“環境と心理”を再演させ、“STAR FRUITS SURF RIDER”を経て“あなたがいるなら”で終えたライヴには拍手が送られていた。自身が起こしたものをこれからずっと背負っていく責任がある。それも含めての覚悟が感じられたステージを完遂させた。

来年はコロナウィルスを気にせずに楽しみたいものだけど、どうなるのか。フジロックという場を守る努力はこれからも一層求められる。

Cornelius

▼フジロック’22 総括
Vol.1 ストレートに楽しかったといえる日がくることを願って
Vol.2 時代は変わっても変わらぬアティテュード
Vol.3 このかけがえのない場があり続けるために

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by みやちとーる、オフィシャル写真