【サマソニ・ソニマニ ’23】リムプレスライターが選ぶ注目アクト vol.1

次世代を担うニューカマーアーティストを追え!

今年のサマーソニックとソニックマニアもチケットは一部を除いて完売した。完売したその要因は、アクセスのしやすさやプラチナチケットなどによるホスピタリティの向上もあるだろうが、サマソニに行く判断軸の傾向として一番はラインナップの内容であることは変わらないと思っている。じゃあ、何が変わったんだろうと考えた時に思い浮かんだのが「クリエイティブマン清水代表の願いの結実」なんじゃないか。清水代表には長年抱いている思いがある。「普段洋楽しか聞かない人に、今の邦楽を聴いてもらいたいし、その逆も作りたい」。

そう言った点では今年のバランスは抜群だ。ヘッドライナーにブラーとケンドリック・ラマーを置いて洋楽ファンの惹きを作りつつ、SEKAI NO OWARIやYOASOBI、さらにはNewJeansやジャニーズWESTで参加者のレンジをさらに広げていく。とはいえ、レンジを広げていくその方法論に“賛否”はあったりするわけだが、「普段見ることないけど、ちょっと観てみようかな」と少しでも思わせることができた時点でサマソニの勝ちだ。

そんな「普段見ることないけど〜」の対象になればいいなと、今回私的注目アクトをリストアップしてみた。vol.1では「ニューカマー・アーティスト」にフォーカスを当ててみた。

NewJeans

東京 8/19(土) MARINE STAGE 12:00〜

BTSやBLACK PINKなど、グローバルな活動を展開する韓国グループが増える中、2022年7月に更なるグローバル・ニューカマーが現れた。5人組ガールズグループ、NewJeansだ。彼女たちのサウンドは、ローカルメインストリームなK-POPサウンドに留まらず、インディ・ロック、ヒップホップ、あらゆるダンス・ミュージックを巧みに取り込んでいる。
そんなサウンドメイキングの軸になっているのは、彼女たちが所属するADORの代表であり統括プロデューサーであるミン・ヒジンや、サウンドプロデューサーの250(イオゴン)らの存在だ。そんな彼女らを取り巻く人たちの「固定観念を捨て去り、異質な要素を大胆に取り入れる」という共通的スタンスは常に新たな境地を作り出している。そんな彼女たちの楽曲の中でも絶妙なのが“Attention”だ。レトロR&Bの匂いを感じさせる親しみやすいメロディ、遊び心のある独特なヴォーカル回し、そしてミニマリズムを感じさせるサウンドプロダクションなど、定型のK-POPの枠を明らかに越えている。
さらに、直近では先日リリースされた2ndEP『Get Up』に収録されている“ETA”がiPhoneのCMに起用されるなど目立った露出も増えてきており、グローバルな規模で成長を遂げている韓国音楽の先頭を加速させているように思う。そんな中、サマソニで生の彼女たちのステージを見られるのは超貴重。これまで「洋楽は好きだけど、K-POPに触れてこなかった」ような人は是非この機会に観てほしいと思う。

GABRIELS

東京 8/19(土) MOUNTAIN STAGE 16:05〜
大阪 8/20(日) MOUNTAIN STAGE 15:30〜

米LAを拠点に活動する3人組のモダンソウルトリオ、ガブリエルズ。ゴスペルをバックボーンに持つR&Bシンガー、ジェイコブ・ラスク。プロデューサー兼キーボードのライアン・ホープ、プロデューサー兼コンポーザー兼ヴァイオリンのアリ・バルジアン。彼らの奏でるソウルなサウンドは”モダン(現代的)”ソウルトリオと謳いつつも、レトロでオールドスタイルな香りも漂っていて、初めて曲を聴いたときは、60〜70年代ソウルやネオソウルが好きな自分にはドンズバで思わず唸ってしまった。
彼らの楽曲を聴き進めていくと感じるのは、緊張と緩和(癒し)の巧妙さだ。前述のように彼らのサウンドの特徴の一つとして「60〜70年代ソウル風なサウンド」があるのだが、曲によっては「ジャズに側近したR&Bなサウンド」だったり、「(アノーニのような)過去のソウル・ミュージックのテイストを抽出しながながらも、モダンなポップサウンド」を奏でたりと、ソウル・ミュージックとしてのレンジがとにかく広いのだ。
そんな彼らの世界観を支えるのは、バックバンドにコーラス隊、ベース、ドラム、シンセサイザーを加えた9人のバンド編成だ。
そんな彼らは「BBC SOUND OF 2023※」の候補となる10組にも選ばれており、今後大きく成長すること間違いなしだ。

※イギリスのメディアであるBBCが評論家や音楽業界への調査により毎年選出する、新しい音楽の才能をランキング形式で選出・発表する企画で、イギリスを中心とした若手アーティストの登竜門にもなっている。過去にはアデルやサム・スミス、ビリー・アイリッシュ、フランク・オーシャン、デュア・リパなど名だたるメンツが選出されている。

WET LEG

東京 8/19(土) SONIC STAGE 18:20〜
大阪 8/20(日) SONIC STAGE 19:10〜

英ワイト島出身のリアン・ティーズデール(Vo./Gt.)とヘスター・チェンバーズ(Gt./Co.)によって結成された2人組ロックバンド、ウェット・レッグ。昨年デビューアルバム『Wet Leg』した彼女らは、今年のグラミー賞2部門とブリット・アワード2部門を受賞。今年2月に行われた来日ツアーも全公演完売。
ここまで名が知られたら「もっと売れてやる!」、そんな欲求に狩られてもおかしくないが、彼女たちにはそういういい意味で貪欲さがない。彼女の楽曲の中心にあるのは「シニカルでユーモラスでキュートな世界観を創造すること」という方針と「とにかくたくさん楽しむこと、そしてあまり深刻に考えすぎないこと。自分たちのために、自分たちの楽しみのために、作品をつくり続けたい。」というマインドだ。
サウンド面に関して言えば、彼女たちが影響を受けたというアーティストたちの匂いを感じつつも、彼女たちの軸にある「シニカルでユーモラスでキュートな世界観」が入り混じった空間を作り上げている。例えば、ペイヴメントのような曲がりくねったオルタナティブ・ロック感はあるんだけど、視点を変えてみるとザ・ストロークスのスタイリッシュなローファイっぽさが見えたり。あとはザ・フレイミング・リップスぐらいのゴリゴリのサイケさかなと思いきや、テーム・インパラやテンプルズのようなニューエイジ感が後味があったり。この時点で少しでも興味が湧いた人は是非ステージを観てほしいと思う。2000年代以降インディーロックを聴き続けてきた人にはきっとドンズバでハマるだろう。

THE SNUTS

大阪 8/19(土) SONIC STAGE 13:00〜
東京 8/20(日) SONIC STAGE 12:45〜

スコットランド出身の4人組インディロックバンド、ザ・スナッツ。ザ・リバティーンズやアークティック・モンキーズなどに影響を受けたという“ザ・UKロックキッズ”な彼らは、地元スコットランドで徐々にその名を広めて、2018年に大手レコードレーベル『パーロフォン』と契約(ブラーやコールドプレイなども契約するレーベルで、王道UKロックバンドサクセスルートと言っても過言ではない!)を果たした。2021年にはデビューアルバム『W.L.』を、昨年9月には2枚目のアルバム『Burn The Empire』をリリースした。
彼らの楽曲の魅力は、現代社会に生きる若者たちの共感を歌う歌詞と、ハスキーで色気のあるジャック・コクラン(Vo./Gt.)のヴォーカル、そして絡み合う時に情熱的で時に叙情的な楽曲にある。地元愛を情感込めて歌い上げる“Glasgow”、OK GOのダンサブルさやウェットな部分が感じられるような“Elephants”など、2000年代以降のインディーロックを聴いてきたリスナーには絶対にハマる楽曲揃いだ。そんな中でも今一番おすすめなのは先日リリースされた新曲“Gloria”だ。インディーロックにセンチメンタルな側面のニューウェイブの雰囲気をふんわりと纏わせたこの楽曲は、この夏のサマーアンセムになること必至だ。

関連リンク

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by  LIM Press