SXSW 2024 Report | たった今、ここからはじまるSXSWへの道

3月11日から16日にかけて、アメリカはテキサス州の州都オースティンで開催された2024 SXSW Music Festival。米軍や武器提供会社の関与を良しとしないアーティストたちが公式参加をボイコットし、ショーケースが繰り広げられている最中に起きたひき逃げ殺人事件などの波乱もあったものの、どっぷりと音楽漬けの6日間を堪能した。

前回の2019年来5年ぶり、2004年の初参加から数えて20年目となった今年のSXSW。なぜこう何度もオースティン・SXSWに足を運んでしまうのか、その魅力と来年初参加を検討している人たちに向けての情報を今年のSXSWを振り返りつつ述べていきたい。

なぜSXSWなのか

SXSWは「音楽を愛する者たちの春休み(Spring break for all music lovers)」だ。開催地である米テキサス州オースティンは、温暖な気候、BBQの肉汁したたるスパイシーな香り、絶品地ビール、そして街中で鳴り響く極上のライヴミュージックで暖かく迎えてくれる。あなたが、音楽が三度の飯よりも大好きで、ワクワクするような音楽を発見したいと感じているならドンピシャ。アーティストやイベンター、レーベルなどの音楽業界関係者は新鮮な刺激やインスピレーションを得るためにもマストだ。世界各地から、それぞれの国で今話題になっているアーティスト/バンドが一斉に集結する。しかも、初期衝動ムンムンのナマの音をいち早く浴びることができるのだ。また、演者や関係者との距離が近いのもSXSWの特徴。演者同士で盛り上がって、期間中にイベントをぶち上げるなんてこともざらだし、終演後には居合わせた一同が一緒に酒を飲み交わして音楽談義に花を咲かせる。これが何より楽しい。「繋がり」を作る上で、この場以上にオープンで可能性が広がる場もないだろう。

まずは行く!と決めるところから

行く!と決めた瞬間からすべてが動きはじめる。来年2025年のSXSWは3月8日から15日にかけて開催されることが決定した。Music Festivalは10日から15日に開催されると見ておいていいだろう。なので、9日中にオースティンに到着、10日から15日は現地に滞在し16日にチェックアウトして出国、17日に帰国が最短のスケジュールとなる。まずはお手元のスケジュール帳にこの日程を書き込んでみてほしい。当日に向かってのひとつひとつのアクションがくっきりと浮かんでこないだろうか。

SXSWに参加するには

行くと決めたら、次はどうやってSXSWに参加するのかだ。SXSWの期間中、ライヴは至るところで繰り広げられているし、あの街全体が音楽に包まれる多幸感あふれる雰囲気はオースティンに行くだけでも十分に堪能できる。昼間から無料のショーケースもたくさん開催されるのでお金を浮かせたい人や、現場で起きることに身を委ねたい人はただ行くことだけを考えたらいい。が、もしあなたが初参加の人なら、すべてのSXSW公式ショーケースに参加できるバッジ(badge)を購入しておくことを強く勧めたい。バッジとは、入場チケットに相当するものだ。開催期間中、参加者はこれを首から下げて街中の会場をはしごし、ベニューの入口でスタッフがバッジをスキャンし入場する。バッジには現在、Platinum(全てのイベントに優先的に入場可能)、Interactive(カンファレンス優先)、Film & TV(Film & TVイベント優先)、Music(Musicイベント優先)の4種がある。音楽が目的のあなたにはMusicバッジの一択で問題ない。音楽に関するカンファレンスや映画もたくさんあるので、Platinumバッジがベストと思われるかもしれないが、Musicバッジに比べて1000ドル程度も高額になるし、他のイベントも優先的でないだけで早めに会場に行って並ぶ覚悟があれば楽しむことは可能。今年、私は初上映となったThe Black Keysのドキュメンタリー映画『This is a film about The Black Keys.』を観たのだが、Musicバッジは第二優先扱いにもかかわらず、そこまで待たずとも入場できた。値段は今年だと最終価格で995ドル(昨今の為替状況だと、15万円程度)。最も早く購入した場合はここから40%オフとなるようだ。早ければ早いほどお得ということ。少しでも早くゲットして参加を確定させよう。

渡航と宿について

公式SXSW参加のためのバッジをゲットしたら、次はオースティンへの航空券だ。現在、日本からの直行便はなく、多くがサンフランシスコ、ダラスやヒューストンで乗り継ぐことになる。私は今回直前に入手したこともあり、オースティンに到着したのは深夜0時。帰りも朝7時発でほぼ寝ずに空港を目指すことになった。現地での滞在時間を最大限に増やしつつ、往きも帰りも無理のないスケジュールで組みたいのであれば、たくさんの選択肢がある早めに予約するにこしたことはない。渡航費を浮かせるべく航空券比較サイトのスカイスキャナートラベルコなどを活用されていると思うが、何度もサイトにアクセスし金額を調べたログが残り、その情報を元に値段が設定されてしまうケースがあることに注意していただきたい。これを避けるべくクッキー(Cookie)を削除してから検索する、もしくは利用ブラウザをシークレットモードにしてから各サイトにアクセスし検索するといいだろう。そして、航空券を予約したらすぐにやった方がいいのがシートの確保だ。トイレに行きやすいなど、長旅を快適に過ごせる席を早めにゲットしてほしい。ESTAのことは予約した航空会社からも再三の連絡があるので詳細は省くが、申請後認証を受けるまで最大で72時間を要するのでやはり直前は避けた方がいい。

航空券の次は宿だ。何度も参加している猛者たちは現地に友人を作り、泊めてもらって滞在費を浮かしたりしているが、ハードルが高いし現地人の自宅が遠いことも多く、まだ地の利のない初参加の方にはお勧めしない。SXSWの主要な会場はダウンタウンエリアにあるので、最初は徒歩圏内で会場を行き来できるようなホテルを押さえるのが最適解。移動時間短縮でめいっぱいライヴを楽しめるし、疲れたらホテルで休んで体力温存もできる。また、ダウンタウンのホテルだと近くにスーパーマーケットもあり、食材を買い込めば経済的。特にSXSWのメイン会場であるコンベンションセンター近くのWhole Foods MarketTargetは隣接していて便利。お土産の購入にも適していて、今回何度も利用した。食材を買い込む場合、冷蔵庫の有無はホテルに事前確認しておいた方がいい(追加料金で借りることもできたりする)。

航空券と宿は、為替相場が今後どう動くかによって金額に大きな影響があるので難しいところではあるが、埋まってしまっては元も子もない。早めの行動が鍵を握る。

オースティンへ飛び立つその日まで

バッジと航空券、宿を押さえたら、SXSW参加のための土台は整ったと言える。日本を発つ当日までの準備を着々と進めよう。去年のインタビューでPeelander-Zのイエローさんも言っていたが、事前に備えておくべきはやっぱり英語。せっかく時間とお金をかけてSXSWに参加するのだ。英語に触れるまたとない機会にしてしまうのはいかがだろうか。お勧めは映画だ。誰しも大好きな映画はあるだろう。特に俳優や台詞がかっこいいなと憧れを感じるようなものがベストだ。一度日本語字幕付きで観て(吹き替えでもいい)、内容を把握したら次は英語字幕で観て英語表現をそれとなくインプットする。最後は字幕なしで観る三段階でやるがお勧めだ。これなら教室などに通う必要もなく楽しみながら英語に触れることができるし、発音、台詞や言い回しがいつの間にか自分のものになる。定期的にこの機会を設けていくと英語脳が自然と出来上がるという具合だ。これは過去、留学の準備として実際に自分がやってみて効果があったので参考にしてみてほしい。何事も楽しむに限る。

次は持ち物についてだ。ショーケースなどのスケジュールは「SXSW GO」という公式アプリで確認していくことになるので、スマホは必携。空港、ホテル、お店は大体無料のWi-Fiが飛んでいて、オースティン市内のネット環境はかなりいいのだが、もしもの時のために現地ですぐに接続できるような準備はしておいた方が無難だ。AmazonなどでeSIMを購入し渡航前に事前設定しておこう。複数人で使う場合は、少し高額にはなるが空港でポケットWi-Fiを借りて行くのもいいと思う。

現地の移動で必要になるアプリ類もスマホに入れておこう。少なくとも空港と宿の行き来で必要になるのが配車・ライドシェアサービスだ。「Uber」、「Lyft」、「Ride Austin」のアプリをインストールしておけば十分だ。
「Luup」など日本でも身近になった電動キックボードシェア/自転車シェアサービス。オースティンで主流なのは「Lime」と「Bird」だ。市内のちょっとした移動で活用する可能性が高い。
そして、日本にいるうちにやっておいてほしいのがインストールしたアプリ内でのクレジットカードを紐づける作業。アメリカに入国してからこの作業をするとエラーで登録できないことがあるからだ。

オースティンの天気は例年最高気温が20℃を超える日が多く、基本的に暑い。紫外線もかなり強いので日焼け止めやサングラスも持参した方がいい。夏の軽装を標準と考えておけばいいが、飛行機の中や建物内の冷房はかなり強いし、寒い日もあるので、ユニクロのウルトラライトダウンのようなコンパクトにまとまって持ち歩くのに最適なジャケットがひとつあるとベスト。今年は雨も降ったのでポンチョもあるといいが、SXSWは街中で開催されるイベントだ。フジロックほど構えておく必要はない。

そして、一番大事なのが現地でどのアーティストを観るかの準備だ。公式出演のみで1200を超え、ありとあらゆるジャンルのアーティストが世界中から集結するSXSW。とにかく多い。まずはSpotifyやYouTubeの公式プレイリストを聴き倒して直感的に良いと感じたものをピックアップしていこう。2月に入った辺りから直前にかけてライナップも本格化しスケジュールも定まっていくので、当日に向けて絞り込みを行っていく具合だ。この準備の段階からたくさんの新しい音楽との出会いや発見を促してくれる。近い将来に目撃できるライヴに思いを馳せ、ワクワクしっぱなしの楽しい時間となること請け合いだ。

オースティン到着!SXSWを楽しみ尽くす

晴れてオースティンに到着。着いたらまずSXSWメイン会場のコンベンションセンターを目指し、Registration(参加者登録所)でMusicバッジをゲットだ。ここから現地での情報収集開始となる。Musicバッジで入場可能なSXSW公式に出演するアーティストのショーケースを軸に置きつつ、現地で次々と開催が告知されるお昼(から夕方にかけて開催される)のパーティーを調査していく。Showlist AustinAustin Chronicle内の特設サイトで調べることになるが、膨大な情報量になるので、スケジュール上公式で観るのを諦めたようなアーティストが出演しないかどうか補足的に調べるのが効率的かもしれない。多くのアーティストが複数のショーケースに出演するので、目を付けたアーティストはどこかで目撃できるチャンスがある。公式もお昼のパーティーも多過ぎて何を観たらいいか分からない人にお勧めなのが、コンベンションセンター内で行われる全米のラジオ局向けの公式ショーケース「Radio Day Stage」だ。SXSW事務局がその年に注目しているアーティストが連日登場する。2012年に亡くなったSXSWの名クリエイティヴディレクター、ブレント・ゲルケ氏ご推奨のステージだ。まずはここに足を運んでみてはいかがだろうか。

そして来年へ

今年はボイコットの影響もあり、イベント自体が中止になったり突如会場が変更になったりすることが多かったものの、6日間で全51組ものアーティストを目撃した。今年一緒に現地取材をした写真家の森リョータも観たアーティストの音源を加えたSpotifyのプレイリストがこちら。ルイジアナの伝統であるケイジャン音楽の新しい形を提示したLost Bayou Ramblersに踊り、2夜連続で開催されたオフィシャルショーケース『TOKYO CALLING』と『INSPIRED BY TOKYO』における日本勢の大健闘と広がる可能性に嬉しくなった。場を一瞬で笑顔にするPeelander-Zを5年ぶりに体感して目頭が熱くなり、お腹いっぱいになったZappとBootsy Collinsによる豪華絢爛な激アツファンクステージも忘れられない。The Black Keysが仲間たちと魅せた愛とリスペクトしかないショーケースに涙した。このプレイリストから今年のSXSWで繰り広げられた世界観の一端を感じ取っていただけるのではないだろうか。

ここまで、SXSW Music Festivalをメインに初参加を検討される方に向けて書いてきた。あなたがSXSWに飛び込むきっかけになれたとしたらこれ以上の喜びはない。来年のSXSWへの道はたった今、ここからはじまるのだ。

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Text by Takafumi Miura
Photo by Ryota Mori