eastern youth | 東京 Shibuya TSUTAYA O-EAST | 2018.12.08

全国ツアー最終日のライブレポートを2本同時掲載!

eastern youthの結成30周年を記念する、全国ツアー『『極東最前線/巡業 ~石の上にも三十年~』が、12月8日、渋谷TSUTAYA O-EASTで最終日を迎えた。9月23日、千葉LOOKでの初日から、ツアー全日程の様子を写真で報じてきたLIM PRESSでは、最終日のライブレポート2本を同時掲載する。


寄る辺ない人たちの歌

O-EASTは満員で始まる前に「もう一歩進んでください」とアナウンスがあったくらい。充実したツアーを締めくくるライヴには期待が高まっていた。始まる前は70年代後半から80年代にかけてのパンク/ニューウェーヴの曲が流れていた。18時5分にバンドは登場する。

フレッドペリーのポロシャツを着て休日のお父さんのような吉野、ボウリングのプロ選手みたいな田森、いつもあのトートバッグには何か入っているのだろう? と思う村岡の3人である。その3人からノイジーな、ラウドな、ヒリヒリした音が発せられるのだ。

街の底で吉野が叫ぶ尊厳と自由は、思想というより、日々の暮らしの中で、吉野が感じていることを歌にして、会場にいるひとりひとりに届けようとしているものだ。O-EASTのキャパシティが1300人であるけれども1300という数字でなく一対一で向き合っているように感じる。小規模な会場なら別だけど、この規模で感じられるのは、イースタンユースだからだ。

「東京、大好き。ふるさとは捨てた。どこにでもふるさとがある。飲み屋の隣のオッさんもふるさと。『そのオッさんにもふるさとがある』んじゃなくて、そのオッさんがふるさとなの」と吉野が語ってから「街はふるさと」。根無し草、寄る辺のない人たちの歌。故郷はない、だけど、どこにでもある。

「月にはクレーターなんかない。バンドやってた奴が月にいこうとしてるけど、俺はいきたくないね。月にはウサギがいるんだ」と「月影」。ステージ前は歓声が湧き上がる。イースタンユースのアンセム感はすごい。「月影」もそうだし、「男子畢生危機一髪」の「ワンツースリーフォー!」の大合唱も、「青すぎる空」「夏の日の午後」「砂塵の彼方へ」のように激しく大勢で拳を振り上げる曲の強さを思い知る。

かと思えば「矯正視力0・六」の心に染み入る寂寥感もある。この曲が全身で表現している「もののあはれ」に涙した。「時計台の鐘」はアニメのエンディングテーマで村岡とのツインヴォーカルが特徴の歌。村岡ゆかが加入して3年。徐々に村岡がバンドに浸透して、イースタンユースが変わっていくことが感じられる。

本編は「砂塵の彼方へ」で終わる。ギターノイズの響きが重なり合い1本のギターからノイズのオーケストラを作りだす。ベースは官能的にうねり、ドラムは多彩な音を叩き迫力で曲を推進していく。シンプルな編成から極上に重厚な音楽を、今自分は聴いていると実感できる体験。これはイースタンユースがまず「響き」のバンドであるのだ。

アンコールに応えて登場。村岡と田森にも話す機会を設け、ホンワカした空気になってから「テレビ塔」冬がすぐ近くまで来ているときに聴くのに相応しい歌である。バンドは去り、客電が点いて音楽も流れたのに、フロアからは、さらにアンコールを求める声がする。そして今度は無言で「踵鳴る」を演奏する。余韻をぶった切るように演奏を止めたらすぐに「また会う日まで」と吉野が挨拶してそのまま去っていった。(イケダノブユキ)


歩み続けて、掴み取った境地

「ぐるっと旅を続けてきてですね、今日は最後ですよ。まあ、最後と言っても特別なことはできません。いつもどおりのことを、いつもどおり。一番一番、自分の相撲を取るだけです」

冒頭4曲の演奏を終え、この日初めてのMCで挨拶を終えた吉野寿(Gt/Vo)は、拍手喝采のなか、そう語った。9月23日の初日から2ヶ月半。eastern youthはこのツアーで14本、ツアー中のイベント出演を含めると17箇所でライブを行った。2013年の結成25周年のときのツアーでは、全国25箇所を巡った。その際、MCで25周年について全くと言っていいほど触れず、恐るべきストイックさを貫いた吉野。結成30周年の今回も、根本的な姿勢は変わらなかった。メンバー3人がツアーの各会場で見せてきたのは、いつもどおり今鳴らす音に持てる力の全てを賭け、フロアに集った観客と真摯に対峙する姿だった。

セットリストは初日から最終日まで変更なし。初期のアルバム『口笛、夜更けに響く』から直近の『SONGentoJIYU』まで、歴代の代表曲が勢揃いする集大成的な内容だった。”ソンゲントジユウ”が高らかに鳴り、”夜明けの歌”、”街の底”、”沸点36℃”と続いて、序盤からいきなりクライマックスがやってくる。ほぼ満員のフロアからは、ホームの東京ならではの盛大な歌声が返ってくる。それも、ただバンドと一緒に楽しくシンガロングしているのではない。観客の歌声も、ステージへ向ける眼差しも、命懸けで歌う吉野に匹敵する切実さをはらんでいる。ステージ上を見渡してグッとくるのは、バスドラムに書かれた「イースタンユース 30th」のロゴ。田森がこのツアーのために、手作りでバスドラムを飾ったのだった。”街の底”の間奏では、吉野がステージ中央まで出て身を乗り出す。フロア最前列のバーに片足をかけ、吉野に向かって押し寄せる観客にグッと向かい、身を翻すと、フロアの熱は最初のピークへ達した。

吉野のギター交換のタイミングで、中盤は1、2曲進むごとにMCが入った。”街はふるさと”の前には「若い頃に故郷(ふるさと)は捨ててきた。街や人の心の中に故郷があるから、寂しくない。(ツアーで)いろんな街に行ってきた。いろんな街に、俺の故郷があった」と語る。

「あちこちにドアがありますよ。ドアを開けて、我々ば今こうして集っているわけですよ。言い換えると、ドアを開けなきゃ誰にも出会わないんですよ。そうやって俺たちは出会ってるんですよ。それ、大事なところなんですよ。開けましょうよ、ドアを。次から次へと開けましょうよ。恐れるな。このドアの先に何があるかなんて、恐れちゃいけねえんだ。ドアがあったら開ける。それ、俺の主義。そうやっていこうよ、ドアを開けましょうよ!」

”ドアを開ける俺”の前にこのように語る吉野へ、同じようにドアを開けてeastern youthへ出会いにきた観客から、拍手が沸き起こる。同曲は今ツアーで新たなアレンジが加えられていた。間奏の村岡のコーラスから吉野のギターソロへの流れがドラマチックだ。他にもセットリストには村岡のコーラスによって、印象が刷新された既存の曲がいくつもある。

”月影”の前には、ツアー先の各会場で、元バンドマンだった某通販サイトの社長が月に行く話題が出た。最終日は言わなかったが、ツアー終盤まで、吉野が「月になんか行きとぅーーーない! tonight!」と決めゼリフ(?)を言うのが定番だった。地方によって別のバージョンもあった。”地下室の喧騒”といった、久しぶりに演奏される名曲も聴けた。

「結成何十年とか聞かないで。今まで何やってきたかなんて、全然どうでもいいんです。ろくなことじゃないんだから。全部しくじってる。今頃ホントだったら武道館ですよ。……ウソ! やりたくもない。こんなに人が集まったら、もういいでしょう。すごいことですよ。本当に」

”矯正視力〇・六”の前に吉野はこのように語り、空間は大きな拍手で満たされた。“男子畢生危機一髪”から後半に入り、本編ラストの”砂塵の彼方へ”まで、衰えることのないテンションと高揚が続く。そして、なんといっても今回のツアーの最大のハイライトは、前半に演奏された”循環バス”と、後半の“時計台の鐘”の新曲2曲だろう。”循環バス”は吉野の現在の生活、”時計台の鐘”は、バンド結成当時、吉野が札幌に住んでいた頃の記憶とリンクしている。田森のドラムが持つ華やかな安定感を土台に、村岡の神々しさすらあるコーラスと、よく練られたベースラインが伸び伸びと光っている。インタビューで吉野が語った「その時、その時の感覚を凝縮していければ」という言葉どおりの2曲だ。一方、楽曲に息づくやるせなさ、寂寞、孤独感に向きあった観客は、たとえ満員のフロアで爆音に曝されていても、徹底的に独りになる。以前から吉野はMCで繰り返し、「ロックでひとつになってほしくない。バラバラになってほしい」と語ってきたが、この2曲ではその状態が見事にフロアに現出する。村岡加入以後3年をかけて掴み取った、今のeastern youthにしかたどり着けない境地である。

アンコール前にフロアに流れたSEは全会場同じで、eastern youthのインスト曲”午前四時”。選曲した吉野にどのような意図があったかは知らないが、この曲でベースを奏でている、二宮友和の存在をリマインドさせられた観客もいたことだろう。二宮が在籍していた23年間がなければ、今日のこの瞬間も訪れなかった。

アンコールでは、村岡が語る。

「こんばんは。今日はたくさんお集まりくださいまして、ありがとうございました。ツアーをぐるっと回ってきて、ちょっとベース成長できたかなと思います。これからも頑張りますので、よろしくお願いします」

こうやって村岡が年末にMCをするのも、4回目だ。達成感に満ちた表情の村岡へ、温かい拍手が向けられた。吉野が「タモ!」と声をあげると田森が立ち上がり、マイクを取る。

「ありがとうございます。千葉から始まって、今日で打ち止めでございます。来年は2月からライブが入っていますので、お誘いの上お越しください。今回は14箇所くらいあってすぐだなと思ってたんですけど、非常に長いツアーでした。曲もいつもより多かったんで。今宵のイースタンユース・ショーはどうでしたか!?」

田森の問いかけに、歓声が一段と大きくなる。「また来年もよろしくお願いします。田森です!」と田森は勢いよく締めた。

アンコールは重厚な始まりとともに、一瞬で空気が切り替わった”テレビ塔”。ダブルアンコールは”踵鳴る”。3人とも最後の力を振り絞る演奏で駆け抜けた。吉野は「今日は、本当に、本当に、ありがとうございました。また会う日まで!」と感謝を述べ、ステージ中央で頭を深く下げる。メンバーが去った後、フロアには2015年の二宮脱退時のツアーの終演後(初日から大阪公演まで)と同じ、西岡恭蔵の”サーカスの終わり”が流れ始めた。

2時間の演奏時間で観客が目にしたのは、eastern youthが30年間かけて積み重ねてきた時間の尊さと、その間に幾たびか訪れた困難を乗り越え、歩み続ける不屈の精神と底力だった。その凄みと重みが、”サーカスの終わり”の哀愁あるメロディーとともに、アンコールを求める拍手が鳴り止まないフロアに余韻を残した。

同日、今年の7月以来となる渋谷クラブクアトロでの「極東最前線」の日程が発表された。次回は2019年4月20日(土)、ゲストにうつみようこを迎える。現在、12/16(日)23:59まで、チケットのオフィシャル先行予約を受け付けている。(平川啓子)


【お知らせ】
2019年1月13日(日)、当サイトの開設1周年を記念して、渋谷でDJ&取材成果の展示イベントを開催します。eastern youthの吉野寿さんをゲストDJにお迎えし、eastern youthのライブ写真展示も行います。1日限りの開催ですが、お近くにいらした際は、ぜひお立ち寄りください。

詳しくはこちらの記事をご覧ください

【LIM PRESS NEWYEAR MEETUP】
https://limpress.com/news/5726


<SET LIST>
01.ソンゲントジユウ
02.夜明けの歌
03.街の底
04.沸点36℃
05.循環バス
06.街はふるさと
07.ドアを開ける俺
08.月影
09.地下室の喧騒
10.男子畢生危機一髪
11.青すぎる空
12.矯正視力〇・六
13.時計台の鐘
14.いずこへ
15.雨曝しなら濡れるがいいさ
16.夏の日の午後
17.砂塵の彼方へ

en-1.テレビ塔

en-2.踵鳴る


eastern youth 極東最前線/巡業 ~石の上にも三十年~
9/23(日)千葉 LOOK
9/29(土)京都・磔磔
9/30(日)金沢 GOLD CREEK
10/6(土)札幌 cube garden
10/27(土)仙台 CLUB JUNK BOX
10/28(日)盛岡 the five morioka
11/3(土)新潟 CLUB RIVERST
11/4(日)長野 LIVE HOUSE J
11/10(土)福岡 DRUM Be-1
11/23(金・祝)広島 4.14
11/24(土)岡山 ペパーランド
12/1(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
12/2(日)名古屋 CLUB QUATTRO
12/8(土)渋谷 TSUTAYA O-EAST

関連記事:吉野寿(eastern youth, outside yoshino)インタビュー / 「これが30年目の俺の心境です」

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Text by  LIM Press
Photo by Keiko Hirakawa