【サマソニ2023/ソニマニ総括 vol.2】ポップ・ミュージックを表現するサマソニの現在と未来

かつてのサマソニのパブリックイメージは、洋楽アーティストを中心とした“洋楽ロックフェスティバル”で、出演するアーティストの大半は洋楽アーティスト、ジャンルもロック系ジャンルが多く、仮にロック以外のアーティストがブッキングされたとしても「ロックリスナーに親和性のあるジャンルのアーティスト」がブッキングされることが多かった。例えば、2004年のヘッドライナーを務めたビースティ・ボーイズや、ダフトパンク、マッシヴ・アタックなど。なので、それらロック系ジャンル以外のアーティストがブッキングされてもさほど違和感はなかった。

1990〜2000年代中盤までの間、サマソニに来場していたロック・リスナーの多くはパブリック音楽チャート(ビルボードチャートや全英チャートなど)に挙がってくるようなトップアーティストを好んでは聴かない傾向が強かったような気がしていて、中にはそれらを偏見で聴かなかったなんて人も多く存在していたように思う。そんな背景があったからこそ、サマソニはその一線を超えないようなブッキングをしていたように見えた。

しかし、2007年あたりからラインナップの変化が始まった。それを踏まえた上で、2007年のラインナップを見てみると、フェスの目玉でもあるヘッドライナーにブラック・アイド・ピーズがブッキングされたのは、かなりのサプライズだったし、パブリックヒットチャートのトップ・オブ・トップのポップ・アクトが既存のサマソニユーザーに受け入れられるのか?という心配心も生まれてた。結果的にその心配は杞憂だった。ステージは、メンバー4人が繰り広げるハイクオリティのエンターテインメントによって、かなりの盛り上がりを見せていたようで、その成功事例が翌年以降のブッキングにも大きな影響を及ぼした。
(この辺は、清水代表のビジョン「ジャンルレスに話題のアーティストが見れる見本市的フェスティバル」に沿っているので、まさに「してやったり」といった感じだろう)

それからの16年の間にも、ジェイ・Zとスティーヴィー・ワンダーがヘッドライナーを務めた“ロック・アクト不在”の2010年や、EDMアクトのカルヴィン・ハリスがヘッドライナーだった2017年など、幾度かそのブッキングが物議を醸し出したこともあったが、その度にアーティストたちが素晴らしいパフォーマンスを見せ、お客さんを唸らせた。それがお客さんとサマソニにとっての成功体験となり、その積み重ねが、サマソニの「ジャンルレスな音楽フェスティバル」というアイデンティティを作り上げたのではと推測する。

加えて「サマソニのアイデンテティの確立」の背景には、間違いなくサブスクやSNSの隆盛もあったように思う。最新ヒット曲の存在を簡単にピックアップ、即アクセスできるようになったこれらプラットフォームの存在は、「曲単位で聴く」という行動を加速化させ、洋楽邦楽問わず、より即効性のあるポップ・ミュージックがよく聴かれるようになった。そんなニーズの変化に伴い、アーティスト側がよりポップに寄せた(非ポップとポップの境界線を無くした)楽曲を作るようになり、ポップ・ミュージックに対するニーズもどんどん高まっていった。そういった変化は既存ロックリスナーにも少なからず影響を与えた。かつては「洋楽ロックファンが好んでK-POPも聴く」ケースは決して多くなかったのが、今やロックファンが「BLACKPINKいいよね!」と言っても全然違和感がないし、逆にポップスファンが「The 1975最高!」なんていうのもまた普通になってきたのがその証拠だ。

そんな現状を踏まえた上で、ここでは今年出演した主要ポップ・アクトに焦点を当て、今年のサマソニを振り返ってみようと思う。

K-POP第4世代の躍進の先に見えた可能性

今アジアのポップ・ミュージックが熱い。BTSやBLACKPINKの世界的ブレイクに端を発し、その進化はどんどん加速している。最近では日本人7人組のガールズグループXGがアメリカで注目を浴びるようになったりと、アジアのポップ・ミュージックの確実な底上げは進んでいる。そういった動きの発火源になっているのは間違いなくK-POPで、昔からキャッチーさという点において群を抜いていたこのジャンルだが、前述にも挙げたBTSやBLACKPINK以降のアーティスト層も確実に育ってきている。その証拠が、K-POP第4世代(2018年以降にデビューし、2000年代生まれのメンバーが中心としたグループたち)と呼ばれる勢力の台頭だ。そんな第4世代から、東京初日に出演したNewJeansとENHYPENを観てきた。

今急速に注目が高まっているNewJeans。サマソニ初出演がいきなりのマリン・ステージということもあってか、「大きなステージでのパフォーマンス」という点においてはまだまだ成長の余地を感じさせたものの、彼女たちの「歌」「ダンス」「表現力」それぞれのポテンシャルを高さを直接的に感じられたのは非常に大きな収穫だった。そして、それを支えているのが「彼女たちを活かすための楽曲群」であることに気づけたのもまた良い発見で、この先の彼女たちを見る目は確実に変わった。
従来のK-POPアイドルの楽曲(厚く張り上げる高音ヴォーカルとスキルフルな歌唱スタイルが映えるような楽曲)とは異なる、メンバー個々の声質や自然な魅力を活かすたの楽曲(それを実現するためのインディ・ロックやフロア系ダンス・ミュージックなどを取り入れた楽曲)は、それまでのK-POPの魅力を見事なまでにグレードアップさせていて、そういった思想から出来上がる楽曲は、今後の彼女らの成長にとってマストなピースだなと改めて感じた。

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続いて観てきたのが、同日のマウンテン・ステージに登場したENHYPEN。こちらは既に東京ドームなどの大会場でライブを行っていることもあって、屋内ステージ用のステージ演出の使い方も見事だったし、メンバーたちが「ステージ上で自分たちがどう見えるのか?」をしっかりと考えたパフォーマンスを見せていたように見えた。楽曲に関しても、従来のK-POPのイメージから逸脱するようなビート強めのワイルドなロックチューンから、甘美な雰囲気のポップR&Bまで幅広く、少ない曲数ながらも初見のお客さんにはいい自己紹介なステージだったように感じたし、自分も既存イメージをいい方向に覆されたような気がするし、他の第4世代の見方も変わってくるなという実感が持てた。

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現在進行形で世界の最前線を行くポップ・アクトたち

そんな若手アーティストの勢いの凄さを目の当たりにして、一層気になったのが、既に世界の最先端を行くポップ・アクトたちだ。特にK-POP第2世代を代表するボーイズグループBIGBANGのSOL(ソル)と、アルバム未リリース(ミックステープ『F*ck Love』のリリースのみ)ながらもジャスティン・ビーバーとのコラボ曲“Stay”で一躍注目の的となったザ・キッド・ラロイ(彼は厳密に言うとラッパーだが、冒頭にも書いたヒップホップとポップスの境界線を無くしてくアーティストという意味では、ドレイクやポスト・マローンのようにラップもやりつつポップに寄せたサウンドもやれるラッパー、という意味でポップ・アクトと位置付けしている)は、同じ世界を舞台としつつも、根幹にある「韓国音楽」と「アメリカ音楽」の違いも感じられたらというのと、マリン・ステージの流れ(ザ・キッド・ラロイ→SOL→リアム・ギャラガー→ケンドリック・ラマー)も良かったので観ることにした。

まずはザ・キッド・ラロイ。まずステージに出てきた瞬間からその新人離れした貫禄っぷりに驚かされ、“Stay”とは異なるトラップビート主体の楽曲にも、最初は若干の違和感を感じたものの、すぐに腹落ちした。そうさせたのは、彼の「俺を見ろ」という強い気持ちに満ち溢れた堂々としたパフォーマンスと、そこから感じた彼自身のブレない軸があったからだと思う。元々故ジュース・ワールド(シカゴ出身の若手ラッパー、21歳の若さで急逝)のチームに才能を見出された背景があるし、その実力は折り紙付きとはいえ、マリン・ステージという広いステージにいるお客さんを、派手な演出なしで掌握してしまうあのスキルは純粋に末恐ろしいの一言に尽きた。

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ザ・キッド・ラロイに続いて登場したのがSOL。ザ・キッド・ラロイが現在の個としてのポテンシャルが最大限に発揮されたステージだったのに対して、SOLは個のポテンシャルはもちろん、BIGBANGやソロで積み重ねてきた経験値や、オーディエンスとのコミュニケーション力、あとはSOL、バックバンド、バックダンサー、さらにはステージ演出をはじめとしたバックヤードのスタッフ全員による『プロジェクトSOL』としての“作品力”を感じた見事なステージだった。
BTSらが世界的ブレイクを果たすまで、「K-POP」のイメージといえば、アジアンビューティーなファッションとメイク、アジアンライクでキャッチーなポップソング、キレッキレのダンスなど、“表面的”な要素のイメージが強かった。
しかし、そこにはK-POP第2世代(東方神起、BIGBANG、少女時代、KARAなど)の「アイドル的な側面を持ちつつ、世界を見据えアジアを中心に活動と実績を残していく」という戦略が背景(都度アップデートはあっただろうが)にあり、その結実がこの日のSOLのステージになっているのだと思うと、そういった戦略が腹落ちした。

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改めて直接的に伝わってくる“ライブの強み”を感じた夏

これまで楽曲や動画で観てきて、そのアーティストの持つ良さはある程度は理解していたつもりだったが、やはり生のパフォーマンスを観ると印象は全然変わったし、見方や捉え方自体がリアルタイムで変わっていくのを感じれたのは大きな収穫だった。
実際、ジャニーズWESTやももいろクローバーZなどのアイドルアクトを生で観て感じたのも、表面的なキャッチーさの方ではなく、その奥にある、ジャパニーズ・アイドル・エンターテインメントの凄みや極みだった。さらに、ジャニーズWESTのような王道があるからこそ、他のオルタナティブなアーティストの存在がより際立つという、シンプルな着地に至ったのもここでの再発見だった。
少し話は逸れるが、僕のロック音楽友達(かなりコアなロックリスナー)の何人かがジャパニーズ・アイドルにどハマりしている。ハマる理由はそれぞれだけど、今回のサマソニでの発見から「ああ、そういうことなのか」と少し納得感が得られたような気がした。

これからもメインストリーム・ミュージックが時代の変化とともに変化していくのは変わらないだろう。ただ“ポップ・ミュージック”というものは普遍なものだと思うし、仮に時代の流れで「ポップ」の微妙なニュアンスが変化したとしても、「いい音楽」と言う大きな軸はずっとブレないだろう。実際、音楽が一般的なものになった50年代以降、ずっと変わらずこの業界の中心にあるのがポップ・ミュージックなのは事実だし、ロック・ミュージックやエレクトロ・ミュージックが主流になった時代があっても、ポップが蚊帳の外に出ることは決してなかった。
そんなポップ・ミュージックの普遍的な可能性をブッキングを通して表現しているのがサマソニで、年々存在感が増すポップ・アクトの存在感を今年直に感じることができた意味は僕にとって大きかった。まだ気は早いが、来年以降のサマソニのポップ・アクトのブッキングが一層楽しみで仕方ない。

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by ©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved., Siyoung Song, Johnny’s Entertainment Record