【サマソニ2023/ソニマニ総括 Vol.3】それぞれが自由に楽しめる3日間のポテンシャル

演者のライブ表現それ自体はもちろんのことだが、近頃は「たくさんのオーディエンスがどういう空間をつくりあげるのか」と「自分はどんな選択とどんな楽しみ方ができるのか」に興味がある。近年はフェスティバル側も様々な層の来場者が楽しめる多様性とバリエーションを前面に打ち出していて、お目当てのアーティストを楽しみつつ「せっかくだし、よく知らないけど観てみるか」と自然と興味本位で会場を歩き回れる設計がなされているように感じられる。

そして、その点においてサマーソニック(以下サマソニ)とソニックマニア(以下ソニマニ)は随一のものだろう。初音ミク(13年、ソニマニ)やピコ太郎(17年)、Kizuna AI(19年)など、従来的なフェスティバルのイメージにとらわれず軽妙なフットワークで話題の最前線を取り入れる姿勢も現在の新たな文脈に連なっているし、一方でBTS(15年)やビリー・アイリッシュ(18年)などを筆頭に、その時はあまり意識しなくても数年後に振り返った時に観たことを自慢したくなるような、次代のヘッドライナー候補達のフレッシュな萌芽が、ラインナップのいたるところに散りばめられている。

さらに都会の生活圏からアクセスしやすく、東京と大阪の2日にソニマニを合わせた5公演、 SUMMER SONIC EXTRAも含めるとそれ以上の選択の幅も魅力の一つで、実際にブラーを追いかけて東京と大阪をハシゴしたという人にも出会った。僕はというとソニマニと大阪2日目に参加。昨年は大阪2日通しで参加したが、今年は土曜日はゆったり過ごしたりと、ライフスタイルに合わせて組み合わせていけるのもサマソニならではの楽しみ方だろう。

よく「サマソニはラインナップが目当て」と言われ僕自身そう思っているところもあるが、フジロックなどでよく言われる「ライブだけが楽しみではない」フェスティバルの魅力は、サマソニにも都市型フェスならではのかたちで広がっているように感じている。そんな一夏の週末を、過ごし方やオーディエンスの様子にも着目しながら紀行文形式で振り返ってみたい。

昨年以上の活気とオープンマインドが感じられたソニマニ

大阪から新幹線で向かったソニマニ。仕事を持ち込むのが毎年恒例になりつつあり、しばらく海浜幕張駅近くのカフェで作業した後、22時前に幕張メッセに到着した。それでもメールをしながらあくせくしていたので、眼前のグライムスのステージ上になんかよくわからない人がいるなとあまり意識せずに踊っていたのだが、SNSを見るとかのイーロン・マスクだったらしい(グライムスの元パートナー)。改悪に次ぐ改悪のXの惨状を思うと安易にネタ消費するのも少し憚られるが、SNSを通してリアルタイムで伝播していくこういったサプライズもソニマニらしい側面なのかもしれない。

外の喫煙所ではなにやらドローンの群体が空に描く様々なモチーフをしみじみと見上げていたが、最後に提供の「文化庁」を描いて喫煙所のみんなでずっこけたのも、まあある意味ソニマニらしい思い出だ。昨年のザ・リバティーンズが来れない件でも思ったものだが、なんだか少し茶化したくなるような特有の親しみや愛らしさも、ソニマニ&サマソニならではの体験だろう。

ずっと真夜中でいいのに。(ずとまよ)のライブの後は、友人と合流しちょっとご飯休憩。フジロックの思い出や明日からのサマソニの話題などに花を咲かせる。関東の友人と会う機会もそう多くはないので、こういうゆったりした時間も大切だ。日付が変わるあたりの時間には、それまでかなりの人でごった返していた幕張メッセが少し閑散としてきたので、この時は「終電で帰る人も多いのかな?」と思っていたが、どうやら電気グルーヴやフライング・ロータスのライブに多くの人が詰めかけていた様子。夜はまだまだこれからだ。

そして向かったのは、ソニマニのメイン・ステージのマウンテン・ステージ。そこで観たジェイムス・ブレイクのパフォーマンスは圧巻だった。この日は幕張メッセの環境もあってあまり音圧を感じられないライブもちらほらあったが彼ばかりは別で、自然と「音がいいなあ」なんてつぶやいたものだ。鍵盤のタッチや歌声の微細なニュアンスなど、一音一音への意識が研ぎ澄まされていて、まさに「神は細部に宿る」ということを実感するようなライブ体験。揺れるでもなく見惚れてしまった。

隣のソニック・ステージに移ると、なにやらフロアは黒い膜に覆われ入場規制。どうやら「オウテカのライブが開演したら入れないルール」が突如示されたらしく、外からチラッと見えた感じだとステージも完全に黒い幕で覆われていて中は真っ暗。マウンテン・ステージが15分ほど押していたので、ジェイムス・ブレイクを最後まで観ていた僕は定刻を過ぎてしまい問答無用で入場できない。なんだそれは(笑)

オウテカが真っ暗なセットでライブをすることは知っていたが、まさかファンではない人も多数いるフェスの場でもそれをするとは。とはいえ、幕の外でもどかしく思いながら同じように感じている人たちと聞こえてくる爆音に揺られた予想外の体験は、とてもカオティックで面白いものだった。最初はオウテカの人気で入場規制になったのかと勘違いして「東京のやつらどうかしてるだろ(褒め言葉)」とか思ったものだが、入れないのに食らいついて踊り倒しているのも十分どうかしてる。そんな居合わせた人たちにお礼を言いたい、ある意味ここでしか体験できないこの夜のハイライトだった。

朝方のLicaxxxやICHIRO YAMAGUCHIのステージでも多くのずとまよやPerfumeのファンらしき人が楽しんでいる様子が見られたし、集客の見込まれるアクトを早めに置きつつ、帰るのが難しい状況をむしろ起爆剤として朝まで丸ごと楽しめる、タイムテーブルの設計が例年以上にうまくはまっていたように感じられた今年のソニマニ。昨年もプライマル・スクリームのライブ中に喫煙所でスクリーマデリカのTシャツを来たお兄さんと「観ないのかよ(笑)」と話したことを思い出すが、感染対策が緩和されたのも相まって、その時々の状況を楽しむオープンマインドな空気が今年のソニマニではより一層気持ちよく感じられた。MURA MASAの一番最後に、聞き間違いでなければ「メイク・サム・ノイズ・フォー・ユアセルフ!」と投げかけていて、まさにそれぞれの楽しみが弾けたソニマニのムードを象徴していたように思う。

ライフスタイルと組み合わせてゆったり過ごした土曜日

帰路に着く頃にはおそらくNewJeans目当てと思われる外の待機列もそこそこの人数になっていて、彼女たちのステージへの期待の強さを思わせる。普段クラブの朝帰りの電車でもよく思うが、前日を終える僕らと当日を迎える人たちが交錯するなんともいえない情感が好きで、それをこの規模感で味わえるのもソニマニ帰りの面白いところだ。とはいえさすがにくたくたなので、新幹線で即帰阪してすぐに眠りに(とか言いつつソニマニの興奮であまり寝られなかったが)。昨年は大阪1日目の最初のアクトに無理矢理間に合わせたので我ながらよくやったなとしみじみ思ったものだが、その時の体調やライフスタイルに合わせて無理なく考えればいい。

この日は大阪府池田市と兵庫県川西市が合同で開催している猪名川花火大会の日だったので、夕方からだらっとそちらに顔を出してみることにした。たくさんの花火に終わりゆく夏の思い出を重ねながら、街歩きの中でちびっ子からお年寄りまでたくさんの人たちが思い思いに空を見上げている様子に触れると、「これが池田や川西市民にとってのサマソニみたいなものなんだな」なんてしみじみ思ったりもする。

もちろんリアム・ギャラガーやケンドリック・ラマーに熱狂しているであろう大阪サマソニのことを羨ましくも思ったが、こういう過ごし方もあっていいなと素直に思えたし、幕張ならディズニーランド、大阪遠征ならUSJで遊んだりミナミで飲んだりなど、別の観光と合わせてもいい。こういった組み合わせも楽しめるのも、ある意味ではサマソニの魅力の一つなのではないかと感じている。そんなこんなで帰宅し、明日の準備へと取り掛かる。

暑さの中でも無理をせず、大阪サマソニ独特の情感を楽しんだ日曜日

大阪サマソニ2日目の舞洲ソニックパーク。大阪ではメインステージのオーシャン・ステージ(多数の野外イベントが行われる、舞洲スポーツアイランド空の広場)、野球場を利用したマウンテン・ステージ(大阪シティ信用金庫スタジアム)、唯一屋内のソニック・ステージ(Bリーグの大阪エヴェッサ本拠地、おおきにアリーナ舞洲)、そして導線のど真ん中にある一番小規模なマッシヴ・ステージと4つのステージがあり、今回は素直にその「野外フェスらしさ」を満喫できたように思う。東京サマソニの幕張メッセ内ではあまりステージごとの大きな違いもなく、建物の構造上どうしても音の響きが気になることがあるが、ここ舞洲ではそういった点も特に気にならずそれぞれのステージの持ち味を存分に楽しむことができた。

シャトルバスで会場に着くと、特に感慨もなくとりあえずコンビニのローソン(誰が呼んだかローソン・ステージ)でだらだらと過ごす。フジロックで苗場プリンスホテルが見えた時のようなソワソワする感じも特にないので拍子抜けしてしまうが、ふらっと近所のお祭りに来たような気の置けない感じも大阪サマソニの好きなところだ。駆けつけ一杯で友人たちと乾杯し、ライブに向かう。

まず向かったのはマウンテン・ステージのSKY-HI。想像以上に熱量が高くメッセージ性が強い歌唱だが、かといって暑苦しくもなく実直で爽やかな気概と誠実さを感じさせた。続くBE:FIRSTも一人一人の歌とダンスが洗練されていてその技量に驚かされもしたが、共通して感じたのはその精悍でひたむきな姿勢だろう。最近では音楽番組への初出演も話題になった彼らだが、これからの日本のボーイズグループを牽引していく気概を持ったアーティストのパフォーマンスにこのタイミングで触れられたのは、今振り返ってもとてもいいライブ体験だったように思う。

それにしても暑過ぎる。もう少し外をまわりたかったのだが、中盤からはソニック・ステージの2Fスタンド席を中心にまったりと過ごす。台湾の張惠妹 aMEIはきらびやかで軽やかなポップスのスタイルが、いわゆるY2Kのようなムードもあり少し懐かしい親しみを感じたし、ホリー・ハンバーストーンは、初期のテイラー・スウィフトを思わせるカントリーライクなサウンドと朗らかな歌声が気持ちよく溶け合っていくのを堪能。屋外のケツメイシやガブリエルズも気になっていたが、予定とは違う動きでもこういう出会いを楽しめるのが、フェスの醍醐味だろう。

昨年のフジロックとソニマニで観ているCorneliusだが、まだまだ暑さにやられているのでそのまま屋内で観ることに。最新作リリース後とはいえセットリストや演出は大きくは変わらなかったが、それでも小山田圭吾が晩年はバンドメンバーとして帯同したYMOのカバー“Cue”から、高橋幸宏と活動をともにしたMETAFIVEのセルフカバー“環境と心理”、そして“あなたがいるなら”へと続いた流れはグッとくるものがあった。もちろん今年相次いで亡くなったYMOの二人への追悼の気持ちの現れだろうが、ある意味で禊のようにも見られていた昨年のライブでは、おそらくこのような粋な計らいはできなかったはずだ。だから今年のこのステージが本当の意味で再出発の一歩目なのかもしれない。そんなことを自然と感じたCorneliusのパフォーマンスだった。

避暑地として人がごった返したソニック・ステージは、それだけ熱気もあって夕方以降は外の方が涼しいくらいになっていた。そろそろまた外にも出てみよう。さて、大阪2日目で最も悩ましかったのが、ブラーとYOASOBIが完全に被っている問題。前日の東京サマソニの両セットリストの美味しいところを確認し、YOASOBI→ブラーと移動することにした。ちょっと邪道っぽいが、こんなことができるのもサマソニ。どちらも前日のライブが大絶賛されていたことにも期待が高まったもので、東西同時開催の旨味はSNSを通してより広がっているようにも感じる。

まずマウンテン・ステージに向かうと、開演までまだしばらくあるというのにすでにほぼ満員状態で、後で友人に聞くと入場規制で入れなかったらしい。YOASOBIへの期待の高さを感じさせる、オーディエンスの熱気はなかなか凄まじいものがある。ステージヘッドライナーらしい大掛かりなセットで、むしろサカナクションや電気グルーヴなんかを想起する、ダンス・ミュージックの意匠を前面に感じるYOASOBIのパフォーマンス。かと思ったらikuraはやたらオラオラしたテンションで僕らを煽ってくるし、なんとも多様なフィーリングが入り混じっている。J-POP然とした爆発的な盛り上がりとキャッチーながら噛みごたえのある骨太なサウンドが作り出す光景は、今年を象徴するハイライトと言ってもいい素晴らしいもので、少しくらいのつもりが思いの外長居してしまった。最後に演奏したらしい“アイドル”は観られなかったが、次の機会を楽しみにしておこう。

そして向かうはオーシャン・ステージ。到着するとちょうど“Country House”や“Parklife”をやっていたところで、はじめて観るブラーのライブなのだがどこか懐かしい安心感を覚えている僕がいる。周りの人たちもそうなのだろう。後方で座りながらも口ずさむ様子があちこちで見られ、それぞれ思い思いの感慨に浸っていた。ブラーはまさに僕らが育ってきた年代の日本から、遠く憧れたUKの歴史なのだ。だがフジロックのザ・ストロークスでも感じられたことだが、 むしろ今がトップフォームとさえ感じる堂々たるライブ・パフォーマンスは、レジェンドのノスタルジーなどではないフレッシュな熱量が溢れている。噛み締めるように歌う“The Narcissist”の情感が、広大なオーシャン・ステージを気持ちよく包んでいた。

その他にも“大規模”といいながら一番小規模なマッシヴ・ステージでも、近所から来た梅田サイファーのたくましいバイヴスや台湾の宇宙人 Cosmos Peopleの人懐っこいグルーヴが、ライブハウスとも近い凝縮された熱量をフロアに伝えていたし(そういうニュアンスのマッシヴなのかもしれない)、ステージごとにさまざまな光景が見られた今年の大阪サマソニ。幕張メッセのような最先端のショーケース感とは違いどこか野暮ったくもあるが、そんな雰囲気が近隣の僕らの日常と地続きな感じがして、やはりたまらなく好きなのだ。来年もここで気心の知れた仲間たちや素晴らしいアーティストたちと会えることを願って、今年の夏を終えることとさせていただこう。

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Text by Hitoshi Abe
Photo by Hitoshi Abe