フジロック’19総括 Part.2 | 今年のフジロックに見たロックの「現在」

多様化が生んだ音楽ジャンルの変化

今年のフジロックが終わりもう1ヶ月が経つ。リムプレスではライター2人、それぞれ異なる視点でのフジロック’19振り返りコラムを公開する。

パート2のテーマは『今年のフジロックに見たロックの「現在」』。世界中のあらゆる物事の多様化が進んでいるこの時代において「音楽」のそれは一体どうなのか?今回はフジロックに出演した多種ジャンルのアーティストらを通して、その辺を考察していきたいと思う。

フジロックらしい“ロック”の概念とは?

ここ数年フジロックの出演アーティストの中で際立っているのが「非ロック」で括られるアーティストたちの存在である。元々多様性を売りにしているフジロックなので割と普通な話なのだが、僕らの中に根付いてしまっている「ロック」と「非ロック」の線引きがフジロックの場合は色濃く、それが近年のポップスやヒップホップのラインナップに対する抵抗感を生んでいたような気がする。

実際、去年今年のメインどころのラインナップを見てみると、去年がボブ・ディランケンドリック・ラマーN.E.R.D、今年がザ・キュアーケミカル・ブラザーズシーアとヘッドライナーの半分が「非ロック」と区分けされているアーティストだ。実際、発表された時のフジロッカーの反応は、ざっくり2つに分かれていたと記憶している。「おお、すごい!最高!」「えっ、全然ロックじゃない?」。物事の受け止め方は人それぞれなので、どちらが正解というのはもちろんない。

しかし、音楽界を引いた目で見てみると、今や「ロック」などの音楽ジャンルは良い意味で形骸化していると言っても過言ではない。ロック・バンドがポップスやソウル・ミュージックの要素と取り入れることは当たり前になったし、エレクトロ・ミュージックやヒップホップでロックの要素を取り入れるなんてことも増えた。フジロックに出演したアーティストで言えば、去年出演したN.E.R.Dなんかは元々レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンっぽいロックな曲も歌っているし、スクリレックスだってあのバッキバキのビート感のルーツにはメタルやハードコアが確かに存在してる。さらに今年出演したシーアは、そんな融解しつつあるジャンルのど真ん中にどっかり座るかのようにあらゆるジャンルのアーティストとコラボレートし、自らの作品に昇華させている。

そう考えると「フジロックらしい“ロック”の概念とは?」となってくる。答えはあるようでない。そう、全ては固定観念の中ででしか括られていないのである。では、今年出演したアーティストで考えてみよう。

ジャネール・モネイとロック的アティテュード

例えば、今年出演したジャネール・モネイ。彼女はプリンスを敬愛し、生き方、音楽に対するスタンス、パフォーマンス観…それら吸収できるものをすべて吸収してきた。そこに結実したアウトプットが“Make Me Feel”だったりもするのだが、そこにあるのはプリンスへのリスペクトから生まれたただのオマージュではなく、彼女の楽曲の根底ある「あらゆる差別に対する抵抗」という強いメッセージがある。そこにはロックに存在するアティテュードと繋がる部分が確実にあり、プリンスのロック的要素と重なり、彼女のジャンルを単なるモダンR&Bに留まらせていない。

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Photo by Ryota Mori

形骸化したジャンルの奥にあるアーティストの本質

ジェイムス・ブレイクにしてもそうだ。今やフジロック常連となった彼だが、ジャンル的な話でいうと初出演のデビュー当時は「ポスト・ダブステップ」で、ざっくり言い換えてみればエレクトロ・ミュージックだった。その証拠に、今でも彼のライブで求められるのはポスト・ダブステップな楽曲“The Wilhelm Scream”や“CMYK”(今回は演奏せず)だが、一方で感動を与えているのは彼の唄がシンプルに堪能できる“Don’t Miss It”や“Limit To Your Love”のような歌モノだったりもする。要するに、ジェイムス・ブレイクもまた「ポスト・ダブステップ」という括りに収まらない位置にいると言うことだ。

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Photo by Ryota Mori

リスナーの楽しみ方も多岐に渡るヒップホップアクト

ここ数年のフジロックでおおいに存在感を発揮しているヒップホップ・アーティストに関してはどうだろう。これまでフジにはエミネムやビースティ・ボーイズパブリック・エネミージュラシック5アウトキャスト、ケンドリック・ラマーなど多くのヒップホップ・アーティストが出演してきた。今年は新進気鋭のヒップホップ・アーティスト、ヴィンス・ステイプルスが出演。彼はヒップホップ・アーティストとしては特異な存在で、いわゆるヒップホップらしいラップもフロウも確かに存在はするが、その楽曲はヒップホップという決まった枠に留まらず、楽曲にハウスやデトロイト・テクノなどを取り入れたりと非常にフレキシブルだ。実際ホワイト・ステージにはヒップホップ・リスナーだけでなく、縦ノリで楽しむロックやエレクトロニックのリスナーもいたし、横ノリで楽しむブラック・ミュージックリスナーも明らかに存在していた。

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我が道を行く“ロックを壊した”パイオニア

トム・ヨークはロックを解体し、非ロック(ここでいうロック以外のもの)に融合していった代表格のような存在だが、彼は変わり続けることに自らのミュージシャンとしての在り方を体現している。UKロック(レディオヘッド初期)からエレクトロニカ/アンビエント系(レディオヘッド中期、ソロ初期)へ、そして進化型UKロックに戻ってきたかと思いきや、超肉体派のビート集団(アトムス・フォー・ピース)になったり。「ジャンルとは?」とそのことを考えることすら無駄のように思える存在もいるわけだ。今年のステージで繰り広げられたステージを見るにも、そこに「ロックなのか否か」なんて論点・議論はもはや存在しない。

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音楽ジャンルの変遷は「分岐」から「融合」へ

「ロックだけど─」「ポップだけど─」「R&Bだけど─」など、今年出演のアーティストを見渡して感じたのは多くのライブアクトの感想の中に「だけど」という言葉が付いたこと。だが、それは決してネガティブなものではなく、音楽の進化や深化の証拠であり、さらにそれは音楽の歴史が証明していることでもある。例えば、ロックがハードロックやパンクロック、ブルースロックなどに分岐していったのと同じように、分岐していった先のジャンルがさらに分岐しようとしているだけの話なのだ。ただこれまでと違うのは、分岐し続けることによりそのベースとなるジャンルの固定観念があってないような状態になっているという事実。その結果「分岐」は「融合」に変わり、「ジャンルの融解」という状態を作り出したのだと思う。

FUJI ROCK FESTIVAL 2019 レポート一覧

▼フジロック’19 総括

Part.1 フジロックで響き続ける「オルタナティヴロック」
Part.2 今年のフジロックに見たロックの「現在」

▼ライブレポート

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Ryota Mori, Official Photo